夭折の天才棋士の生涯。生きることとか才能とかを考えさせられる。 大崎善生/聖の青春

公開日: : ノンフィクション

29歳でこの世を去った夭折の天才棋士、村山聖の生涯を描く、
ノンフィクション小説。

人に勧められて読んでみたのだけど、とても良かった。

聖の青春 (講談社文庫)
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大崎 善生
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聖は幼少時にネフローゼという難病を発症してしまう。
それが彼とその家族に暗い影を落とすのだけど、
聖も、その家族もそれぞれが自責の念を抱えながら懸命に生きている。

普通に生きていられることのありがたみを痛感しつつ、
のんべんだらりと、緩慢に生きることが如何にもったいないことか、
読んでいて心に迫るものがあった。

別に常に何かをしていなければいけない訳ではないけれど、
何もしないなら何もしないで、何もしないという意志を持った方が良いというか、
行動や意思決定に自覚的であるべきだとは思った。

だらだらするならするで、だらだらできる幸せを自覚した方が良い。

自分にも子供がいるからか、聖の親の視点が気になった。
自分の子供が難病になったら自分は何を思うんだろう。

検尿と簡単な診察を終えた後、
白衣をまとった若い小児科医は顔色ひとつ変えずに言った。
「ネフローゼです」そして、独り言のようにつづけた。
「お母さん、大変な病気にさせてしまいましたねえ」
そうか、とそのときトミコは思った。
この若い医者は私に向かってこう言っている。
母親であるあなたがこの子をこの病気にさせたのですよ。
子供が病気になったのではなくて、親であるあなたがそうさせたのですよと。
この言葉をトミコは胸に深く刻みこんだ。
そして、一生忘れないでおこうと決心した。
P.26

こんなん言われたら一生後悔を背負いそうな気はする。
母親と父親とでまた感覚も違いそうだけれど・・・

いずれにせよ、幼少時から死を身近に感じながら
生きてきた聖の感覚にはハッとさせられる。
中でも淀川のエピソードは、考えさせられるな。

そのころ、村山はトミコとこんな話をした。
「母さん、淀川で昨日人が溺れて死んだって新聞に出ていた」
「まあ」
「でも誰も助けにいかんかったそうじゃ」
「泳げる人がおらんかったんでしょう」
「母さんなぜそんなこと言うの?」
「えっ?」
「僕だったら助けに飛びこんだ」
「だって、聖泳げないでしょう」
「泳げなくても、僕は飛びこんだ」
「そんなことしても、助けることはできないんだから無意味よ。
皆迷惑するだけじゃない」
「なぜ? そんなことを言って、結局は弱い者や困っている人を見殺しにするだけじゃないか。
何だかんだいっても遠巻きに見ているだけで、大人は何もしない。
でも僕は違う、僕はたとえ自分がどうなっても助けるために川に飛びこむよ」
P.154

自分なら何の迷いもなく飛び込まないだろうけど、
聖の言ってることもわかる。
聖がそう言いたくなる事がわかる、といった方が正確かな。

そしてプロの棋士として戦っていく中で、
聖は自分の中に強烈な自己矛盾を抱えはじめる。

プロになって思うことは、勝負の世界というのは何もない真っ白な世界だということ。
将棋盤を目の前にして、よいも悪いもなくただ自分はいつも真っ白になっている。
そこは神も入りこめぬ神聖そのものの世界である。
しかし、勝負には決着が着く。
僕が勝つということは相手を殺すということだ、
目には見えないかもしれないがどこかで確実に殺している。
人を殺さなければ生きていけないのがプロの世界である。
自分はそのことに時々耐えられなくなる、
人を傷つけながら勝ち抜いていくことにいったい何の意味があるんだろう。
そして、早く将棋をやめたい。
名人になって、将棋をやめたいと何度も呟くのだった。
P.188

どうやってこの自己矛盾に折り合いをつけていたんだろう。

いずれにしてもこの本は考えさせられる。
将棋の話というよりは、プロ論であり、
如何に生きるか、って話だった。

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