酒飲みは読んどいて損は無いのかもしれないアル中小説。 中島らも/今夜、すべてのバーで

公開日: : 小説(国内)

サブカル好きの人達は一通り通過する作家、それが中島らものイメージ。
で、この年まであまり素直に読む気になれなくて、避けて通ってた。

連日酒を飲む自分に、友人が勧めてくれたのがきっかけ。
まぁ、とにかくオススメだから読め、と。
そしたら作者自身のアル中体験をふまえたフィクション。
若干の悪意を感じるが、確かに面白かった。

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まぁ何で避けてきたかっていうと、
若干分かりやすすぎるキライがあったからかもしれない。
中島らも好きを標榜するやつも、
それが何か鼻につく自分も若かったんだな、多分。

おれが依存症の資料を集め始めたのは、この頃からである。前にも言ったように、アル中の文献を「肴」にしながらウィスキーを飲むという、自虐的な心境を楽しんでいたのだった。
P.63

まぁ、例えばこういう感じ。
こういうノリ、もちろん嫌いじゃないんだけど、
一歩間違うとすげーうざいからな。
中島らもは良くても、安易なフォロワーがウザい、
みたいなことは往々にしてある。
ちなみにどんな本読んでるのかと言うと、こんな感じ。

『アル中地獄』は日本で、あるいは世界でおそらく唯一の、アル中患者本人があらわした著作物だろう。
著者の邦山照彦氏は、十余年間に実に三十六回、アル中病棟を出入りした人物だ。文字通り「アル中歴日本一」の記録保持者だ。廃人寸前にまでなりながら、奇蹟的な復活を遂げ、いまは故郷の高山で自営業を営んでおられる。
P.108

この本、凄く面白そうな予感。
今でも簡単に手に入る。

で、色々とアル中やその治療に関する知見も広まって一石二鳥なのだけど、
その中にエルヴィスのヤク中の話がちょろっと出てくる。

こうして前後不覚になるまでラリるのは、彼自身の言によればこういう理由だった。
「みじめな状態でいるよりは、意識を失っていたほうがマシだからね」
これだけのラリ中だったエルヴィスは、薬物の致死量や副作用については熟知していた。
最後の夜の摂取量は、致死量をはるかに越えた、とんでもないものだった。覚悟の死だったのである。
P.122 – P.123

まぁ、現実逃避。ツラいから、中毒になる。っていう言い訳。
でもこれに対して結構マジメに否定しているのが面白い。

同じ苦痛を引き受けて生きていても、中毒になる人間とならない人間がいる。幸か、不幸か、なにかの依存症になってしまった人間が、一番言うべきでないのが、プレスリーの台詞なのではないか。中毒におちいった原因を自分の中で分析するのはけっこうだが、“みじめだから中毒になりました”というのを他人さまに泣き言のように言ったって、それは通らない。それでは、みじめでなおかつ中毒にならない人に申し訳がたたない。“私のことをわかってくれ”という権利など、この世の誰にもないのだ。
P.124

まぁ、権利なくてもわかって欲しいっていう
どうしようもない甘えもまた人間の面白いところだとは思うけれど。
で、らも自身はアル中の要因をあり余る「時間」と言っている。

「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。
「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」のことでもある。
P.132

教養の定義がユニーク。
で、結局合法的に手に入るドラッグが酒なんだって話。
しかも麻薬よりも耐性がつきにくい。
誰でも一定量飲めば酔える。

飲む人間は、どっちかが欠けてるんですよ。
自分か、自分が向かい合ってる世界か。
そのどちらかか両方かに大きく欠落してるものがあるんだ。
それを埋めるパテを選びまちがったのがアル中なんですよ。
P.229

そして↑こうなると中毒ってことなんだろう。
中毒とまではいっていないけれど、
たしかに、何か欠落感はあるかもしれないな。
少なくともこれ読んで、少しは気をつけようと思った。

それと、これも断片的なメモだけど、
さやかが自殺した兄に言及するシーンも印象的。

死者はいつも生き残った人間をせせら笑ってるんだわ。まだ、そんなことやってるのか、って。ご飯を食べたり、会社へ行ったり、恨んだり、怒ったり、笑ったり、傷つけ合ったり。死者から見れば、あたしたちってずいぶん頓馬に見えるはずよ。
(中略)
思い出になっちゃえば、もう傷つくことも、人から笑われるような失敗をすることもない。思い出になって、人を支配しようとしているんだわ。
P.144 – P.145

まぁ、思い出になって支配する、あるいはされる、ってのはあるな。
ただ、そういう実体のないものにあまり価値を置き過ぎるのは危険よね。
思い出なんてしょせん思い出。実体を伴っていることの方が重要な気がする。

で、終わり方もわかりやすい。
ある種のばかばかしいわかりやすさ。
ちょっと失笑。

おれは自分にできる精一杯の二枚目の顔をつくって、さやかの肩に手をかけ、耳もとにささやいた。
「きみがおれのアルコールだ」
P.286

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