日本語の醍醐味と言うシリーズ名に相応しい傑作。石川桂郎/剃刀日記
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小説(国内)
この本に出会ったのは、本好きなら知っているあの千駄木の有名書店、往来堂書店。
人に連れられ初めて行った時、こんな本があるのかと衝撃を受けた品揃え。
で、そのときの戦利品の一つが、この本。
曰く、シリーズ日本語の醍醐味。
何とも素晴らしいシリーズじゃないか。
そして版元が烏有書林、申し訳ないけど全然知らなかった・・・。でも、もう忘れない。
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知らない作家、知らない版元、ではなぜ買ったのか。
それは、この日本語の醍醐味シリーズの中に私の最高クラスのお気に入り、藤枝静夫『田紳有楽』が入っていたからだ。
この本をセレクトに入れている時点でそのクオリティは確かなものだと確信。
途端に、この新たな出会いは興奮に満ちたものになっていた。
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そしてこれを書くにあたり、Amazonで検索してみたら、
何と『田紳有楽』は講談社文芸文庫版であれば、Kindleでも読める!
こう言うのはまさに時代は変わったなぁ、と痛感する瞬間。
閑話休題。
石川桂郎(いしかわ けいろう、1909年8月6日 – 1975年11月6日)は東京出身の俳人、随筆家、小説家とのこと。そして実家が理髪店だったそうだ。
本作『剃刀日記』も床屋の主人が語る話で、一見すると著者本人の体験に基づく随筆、あるいは私小説的な印象を受ける。
が、石川桂郎が奇天烈なのは、ここに収められた話がすべて虚構であり、フィクションであるということだ。
師事していた横光利一からも「一度嗅いだが最後も早や忘れがたなくなる匂い」と評されており、読後感はまさにそのような印象。
本書に収められた作品も冒頭の「蝶」、あるいは死者の顔を剃りにいく「薔薇」のような幻想的な話もあれば、中盤以降のまったくもって自らの体験を語るような作品群と大きく分かれている。
読んでいて、一気に引き込まれたのは冒頭の「蝶」のような作品で、静謐な緊張感のある文章、それでいて夢を見ているような非現実的な雰囲気。夢と現の境にいるような作品で、日本語の醍醐味とはまさにこのこと。
月並みだけど、漱石の『夢十夜』を思い出したし、硬質な筆致でリアルに描写される非現実という文章は藤枝静男にも通じるものがあり、このシリーズの素晴らしさを感じながら読んだ。
しかし、すべて虚構だと知れば知るほど、まったくもってリアルな話の数々がこの作家の奇妙さを表しているように思えてならない。近所の理髪店の娘を嫁にもらおうとして断られた話や、店を潰して白い目で見られる話、店を潰した自分の葛藤、そして勤め人として働く苦労、どれも作家本人の体験に基づいた話にしか思えないのだが、創作なのだそうだ。
なんて頭おかしい作家だろう。(注:これはほめ言葉)
他の作品も読んでみたいが、当然ながら古書を探すしか無い。
しかし、これはかなり掘り出し物だったような気がする。
あんまり知られたくない部類の作家。一人でこっそり楽しみたい。
レクタングル大
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